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若手生産者紹介【その⑦】

  

安藤 隆(あんどう たかし)

 


“自然と一体化できるような農業を目指す” 

 “私たち生産者は「自然に食べさせてもらっている」という考えを

忘れてはいけないと思います。”

農業に興味を持ったのはいつ?と聞かれると、はっきり覚えていないけど、もともとは環境問題に興味を持ち始めて、それが20代の前半の頃だったかな。そして徐々に自給自足や地産地消についても興味がわいてきて、農業か林業の仕事に就きたいと思うようになったんです。

 

以前にオーストラリアの農家で働いて生活していたことがあるんです。そのとき、自然の中で働くことってシンプルなようで実は奥が深いって感覚的に思いました。それから日本では農業とは関係のない仕事をしていましたが、そのオーストラリアでの経験が就農へ向かわせたんだと思います。

そしてインターネットで探しているときに見つけたのが、ジョイファーム小田原の代表がやっている長谷川農園の研修生の募集でした。小田原は出身地の平塚から近いし、研修期間中に給与がでるというのも魅力的でした。2015年に研修を開始しましたが、自分が長谷川農園の研修生第一号だったみたいですね。ただ、その当時は就農についての情報って少なかったと思います。

 

オーストラリアでは、普通に学生が夏休みのアルバイトで農業を経験するということがあったりして、農業がもっと身近にあると感じました。日本では農家の家に生まれたりしない限り、農業を体験することってあまりないですよね。仮に農業を仕事にしようと思ってインターネットなんかで調べてみても、情報自体があまり出てこない。新規就農者が思うように増えないのは、いろいろな理由があると思うけど、どうしたら農家になれるのかわからないことも問題なんじゃないかな。


自分は20174月に独立して、今はキウイ、梅、柑橘を栽培しています。借りている畑はこの3年間で徐々に増えていって、10か所くらいになったかな。就農した当初は地域の人に受け入れてもらえるか不安でしたが、実際は疎外感なんて感じないし、とっても好意的に接してもらっています。

農作業に関しては研修当時からそうでしたが、体を使う仕事は好きなので、体のつらさは感じないですね。逆に「自然とのかかわりが本当に深いな」って感じるし、楽しいんです。ひとつの畑の草刈りが終わった後とか、ひとつの畑の剪定が終わったときなんかは充実感があります。特に剪定は難しいけど、おもしろいですね。

 

木はどれも違うようであって似たところがあるし、でも似たようであって違うところがあったりして本当に奥が深いです。基本的な理論はあるけど、全て当てはまるわけではないし…。元々、文章を読むことが好きだし、分からないところはインターネットや本で調べて、常に自分の知識をアップデートしていくようにしています。

 

自然の生態系って想像できないくらい沢山の要素が絡み合って成立しているので、めちゃくちゃ興味深い。だから、少しでも理解できると、毎回ちっちゃく感動していたりします。

 

あとベテランの生産者の手伝いをお願いされたりして、作業の合間にポロっと長年の経験から培ったことを教えてもらえたりすることがあるんです。自分は昔からの伝統や長年受け継がれている文化が好きだったりするので、そういうベテランの技術や理論もすごく勉強になるし面白いです。 

そして、なんといっても自分で作ったものを収穫する時、それを出荷する時は楽しいし、嬉しいですね。栽培した結果が、数字になって出てきますからドキドキします。残念ながら今年は、一昨年の台風の影響でキウイの収量は少なかったですが、味には自信があります。

 自分が目指しているのは、自然にやさしい農業です。除草剤は一切使わず、キウイフルーツは無農薬無肥料で栽培し、梅は殺虫剤は使わず、南高梅のみ必要最小限の殺菌剤を使って栽培しています。農薬は害虫を駆除してくれる天敵の虫まで殺してしまうので、畑の自然サイクルを壊してしまいます。自然に配慮して、なおかつ収穫量を増やすためには、できる限り慎重に摘果をし、剪定にも気を使います。労力はかかりますが、自然にやさしい農業を目指すうえでは、きめ細かい作業が大切ですね。

こうして自然によりそって仕事をし、年を重ねるごとに「自然に食べさせてもらっている」という謙虚な気持ちを忘れてはいけないと感じます。

 

農業経営に必要なものは「体力」、そして「農業を楽しいと思えること」だと思っています。だから新規就農を考えている人は、「農業が楽しい!好きだ!」と感じたらどんどんやったら良いと思います。収入面とかで考えてしまうこともあるでしょうが、飛び込んだらいいんじゃないかな。

 

小田原でも農家の後継者問題は深刻で、やっぱり若い人が少ないです。自分は若手といっても30半ばなので、もっと20代前半の人とか、どんどん飛び込んできてもらって一緒に盛り上げていけたらと思います。