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若手生産者が継続的に活躍できるように②


「新規就農者」となった瞬間に、独り立ちをしなければならない農業。

 

極端なことを言えば、研修を経た大工さんがいきなり1人で一軒屋作りに挑戦をするようなものです。ベテラン生産者曰く、「今はインターネットが普及しているから、若い子は調べ物が上手だよ。俺達よりよく知っていることもあるからね」とのこと。

 

しかし、気候風土を相手にしなければいけない農業は、教本通りとはいきません。

 

ジョイファーム小田原に加入をした若手も、独立して1~2年目は自分の農園で働きながら、先輩農家のもとへ アルバイトに行くことがあります。

 

曽我地区の鳥居啓宣さんはそんな若手を受け入れている先輩生産者のうちの1人です。

どのような思いで若手と接しているのでしょうか。

生産者も消費者も納得するいいものを作るにはお金が必要

農家は「安心・安全な農産物を作る」のは当たり前だけど、若手が生活・経営する上ではまずお金が必要だな。

 

若いうちは最高にいいものをとにかくこだわって少量作って高く売ろうと直接販売を考える奴もいると思うけど、「見た目が虫や病気だらけでも農薬を使ってないから買います!」とか、「台風が来て量が取れなかったみたいだから300円のものを今回500円で買います!」とか、そんな人たちが世の中にたくさんいると思うか?俺は思わないなあ。

 

有機認証について勉強すればベテランの生産者がいいものを作ろうとどれだけお金と時間をかけているかよくわかるよ。

 

「金儲け」って言葉は世間的には悪く使われがちだけど、儲からないと使いたい資材だって使えない、それは選択肢が限られるってことだし、もしそれが「いいものを作ろう」という漠然として考えで農家が身銭を切ってとか自分の生活を切り詰めてということになったら、継続的な農業を実現するにあたっては本末転倒だと思うな。

 

いいものでも計画通り売りさばけなければ農家側でロスを一手に引きうけなきゃいけないし、人手がないのに直接販売なんてもってのほか。そう考えると「農家と消費者と協力をしながらいいものを作るから適正な価格で買ってほしい」と思う俺達にはジョイファーム小田原っていう農家の代わりに販売をしてくれる強い味方がいるんだよ。

若手に「果樹農家」をすすめるわけ

農業をする上で果樹・野菜・米のどれを作るかまず軸を決めることが重要で、この3つの中では米は比較的簡単だけれど機械が高額だから、メンテナンス等にお金がかかることを考慮しなければいけない。

 

と、考えると資金も機械もない若者では、米栽培の選択肢というのはなくなる。

 

次に野菜は何をどのくらいの面積でいかに節約して量を作るかが重要で、利益を出そうと思ったときに何種類もの野菜をたくさん植えて、資材費を抑えなきゃいけない。野菜はどれだけ種が安く手に入って量を作れるかが勝負だから、家庭菜園とは違う栽培をしなければいけない。珍しい野菜なんかはみんな欲しがるけど、慢性的に収穫の手が足らないから大変だぞ。

キウイ収穫のお手伝い

果樹も野菜と同じで何をどのくらいの面積で作るかが重要だけど、1人ではじめたときに作業の手が足りる果樹はいいと思ったな。

 

ただ、頭に入れておかなきゃいけないのは梅もキウイもみかんも単価としては安く、どの作物を軸にしたときも厳しいことに変わりはないから。

 

小田原は他の産地と違って面積が狭い農地がたくさんあるような場所だから、どんぶり勘定でいると畑への移動で使ったガソリン代や選果場への往復とか細かいところで費用がかかって、後で困ることになる。

だから、引越しをする前に住むところに作業小屋はあるかどうかと、その拠点の近くに畑は固まっているかもよく考えるといい。

若手が農園を拡大をしたいと思ったときに悩む「人を雇う」ということ

人を使わない個人農家の現実をみればわかるけど、だいたい四六時中働いてるよ。

 

就農したばかりのときは人を雇えるお金もないから1人で経営しなきゃいけないけど、ちょうど5年、助成金の交付が終わった頃から誰でも農園の拡大を意識し始めると思う。

 

結局は事業を大きくしようと思ったときに最後は「人を雇って」いくら稼ぐか計算しなきゃいけない。例えば1人で300万円稼ぐものも3人で900万円じゃなくて全員で効率を上げて1100万円くらいの売り上げにしていかなきゃ、それくらいじゃないと人を雇って農業なんてとてもできない。

 

アルバイト・パート・正社員の賃金や働き方改革が求められる中で、作業として何を分担してやってもらったら人を雇える以上の十分な収益につながるかをそれぞれの雇用主(農家)が考えなきゃいけない。

 

うちは休憩ばっかしてるから、「鳥居さんのとこ、農作業よりお茶の時間の方が長いんじゃないですか~!?」とかしょっちゅう言われてるけど(笑)

 

実は休憩なしでバリバリ働いている農園より、休憩時間の長いはずのうちの方が短時間で作業が終わっていたりするんだよ。

 

休憩時間をはさむことで頭が切り替わるっていうのもあるけど、俺がどこまでやって、どこからパートさんやアルバイトさんに任せるか、線引きをしてるんだ。

 

この作物は単価が高いからここまで自分でできる、とか、剪定は収量に大きく関わるから他の人にはやらせないとか、この作物は単価は安いからもう少しこだわりたいけど他の人ができるから任せるとか。

 

自分が作った自己満足における「最高にいいもの」とみんなの思う「いいもの」とすり合わせをして、双方が思う「いいもの」に仕上げていけばいい。

 

一代目として農業をはじめる前に

うちは親父が農家だったから、親元就農したんだ。親元就農って聞くと何もかも順風満帆なんじゃないかとかいろいろ思われているようだけど、農家の財布というのはその経営者(親が第一線で働いていれば親)が握っているから、息子は農業を継ぐといっても親の農業経営の財布を見せてもらえるようなことはない。労働力に対して親からもらえる賃金はアルバイト並みだから、外に出て農業を手伝って「こうしたら自分が農家を継いだときに発展できていいだろう」という経営のセンスを自然と学んでくるわけだ。

 

自分が親の世代から財布を握らせてもらえない立場を経験してるから、じゃあさらに自分達の子どもが農業を継ぐって時にうまく継ぐことができずにそこで終わらないか?ということまで考えるんだ。

 

結婚していて配偶者がいる家庭は拡大して人手が足らなくなったらまずはじめに配偶者に「手伝って欲しい」と相談することになると思うけど、そこにも理解があるのか相談しなきゃいけないよ。

 

自分の世帯から農業をスタートするって新規就農者は将来の家族についてもよく考えて欲しいな。

 

家族のことも考えたときに小田原に住んでいるということはとても重要で、地域のコミュニティを把握したり、仲間になってお互いを見守る、だからベテラン生産者から若手には「地域の行事には参加しろ」と言うんだ。

 

厳しいことばかり言うようだけど、イメージを壊さないように「農業はいいですよ」「就農しよう」ばっかり言ってると続かないから。

 

「自然が好きだから」とか「経営の采配を振れる」という動機で農家を目指してもらえるのはいいけど、何に関しても「先を見通した計算」ができなければ行き詰って辞めざるを得ないことになる。

 

昔は農家になるって言ったら家業を継いで、親元就農を経て一人前の農家になる!みたいなのが当たり前だったから、最終的には土地だって親から相続してたし、住む場所だって自分の生まれた場所だから楽だったけど、現代はほとんどの若者は資金も拠点もが全くないところから一代目として独立農家を目指す人が多いんだから当然厳しいよ。

よく「農業研修を受けよう!」となる前に考えて欲しいな。