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梅の生産には人も生きものも大切


天気の良い日が続き、梅の花も満開です。

 

小田原梅の里さんぽの開催に伴い梅林の会場近くの72号線沿いはお散歩を楽しむ人達で賑わっています。レモンやネーブル、青島みかん、大津みかん…たくさんの柑橘が並ぶ無人販売所や、小学生が庭先で切ったお花でお花屋さんをしているのも下曽我ならではの良い田舎の風景です。

 

下曽我の生産者 斉藤徳雄(さいとう のりお)さんのお宅に行くと、家族全員でキウイの袋詰め作業をしていました。

 

「今日は合計250kg500袋も袋詰めの作業をしてるからまだまだ終わりそうもないよ~、午後にはジョイファームのセンターに出しにいけるからね!」とテキパキと袋詰めをしていました。

 

いままで数多くの生産者と消費者の交流会へ生産者として、時には梅干し作りの講師として参加してくれていて、「何か頼まれると断れない性格なだけなんだよ~、インタビューも緊張しちゃって何を喋ったらいいかわからない~」と言い笑う徳雄さんですが、優しい笑顔と物腰が柔らかい姿から、いつも交流会が終わる頃にはたくさんの人たちに囲まれています。

料理人から梅栽培を中心とした農家へ

両親が農家として梅・みかん・キウイを栽培していて、小さい頃は自宅の隣に家2つ分近くの大きなしょうゆ蔵がありました。学生の頃になると蔵の中にある6畳くらいの大きな木の樽にしょうゆを仕込んでいました。はしごを上ると諸味(もろみ)を見ることができて、棒でかき混ぜる撹拌(かくはん)という作業を手伝ったり、それが楽しみだったんですよ。

ある時、保健所が立ち入りをしたときに蔵の木の柱にカビがついているから立て直さないと駄目ですよって言われて、しょうゆ作りをやめちゃったんです。

 

でも最近になってそれはカビじゃなくて実は酵母で、(酵母が)あるほうがいいなんて言われるようになったから、もったいないことをしちゃったな~と思いました。

 

社会人になってからは料理人の道に進んだのですが、父が早くに亡くなってしまって、40代後半で跡を継いで農業をはじめたんです。実は農家歴は10年とまだまだ浅いのですが、今のコロナウイルスの飲食店の騒動をみていると転職して農家になったタイミングとしては良かったのかもしれないと思う一方、今後の飲食業界のことを考えるとなんとも言えない気持ちになってしまいます。

 

農家としては剪定が得意ですよ。まだ十年だから得意と言っていいのかわからないんですけれど、剪定に対しては独特のこだわりがあるから、剪定の影響で「いい実が生った!」と実感すると嬉しいんです。

 

毎日仕事が終わってお酒を飲むのが楽しみですね。仕事が忙しいので趣味には時間はとれませんが、最近孫が生まれたんですよ。男の子で、まだ生まれたばっかり。孫に元気な顔をみせられるように健康で元気にいられるようにしなきゃいけないと思っています。

それと、料理!もとは料理人だったからなんでもできるっていうのもあれなんだけど…いろいろ作れますよ!

梅と虫の共存関係

梅の木は山の中腹を中心に合計で750坪分畑を耕作していて、十郎と白加賀が半分ずつ、その他に十郎小町という小さい梅を栽培しています。

何故南髙梅を栽培していないかですか?好みの問題ですが、自分の場合は皮が硬いので梅干しを作ったときに「梅干にはあわないな」と感じたからです。なんとなく塩のなじみ方にムラがあるように感じるんですよ。

梅の花とミツバチ
ミツバチが花粉を運んでくれる

梅を栽培する上で大変なのは病気と虫と草刈りの作業ですかね。あと最近、梅の収穫時期に雨が本当に多いですから、雨の日は梅の実が落ちやすくなるので、休まずに収穫するようにしているのですが、カッパを着て収穫をすると暑くてむれるし、枝にぶつかると水滴がたくさん落ちてきてびっしょりになります。

 

病気はかいよう病、虫はカイガラムシ、アブラムシに悩まされますね。アブラムシはすすが出たように梅の木が真っ黒になってしまうんですよ。

だから、テントウムシは大切にしています。テントウムシの幼虫はカイガラ虫、成虫はアブラムシを食べてくれるので。必要のない農薬を減らすということは、虫に困ることもあれば助けてもらうこともあります。

 

十郎梅の受粉にミツバチの巣箱を置く農家も多いんですが、うちは特に使ってはいませんけれど、ミツバチが自分達に害がないって思っているのかな。自然と梅の花の蜜を求めてやってくるんです。

梅干は小田原梅品評会では優等の常連 神奈川県知事賞の受賞経験も!

小田原梅品評会で優等をいただいているのはたまたまですよ!(笑)

出品するから特別にいい梅を!ってこともありません。なぜなら私が梅農家なので、梅干しを仕込む時期は忙しく、ご家庭のように1つ1つ丁寧に仕込んで…ということができないのです。

梅干し用は収穫期に熟した黄色いものをもいで、青みが少しあれば更に置いてまんべんなく綺麗な黄色にします。十郎梅であれば落ち梅も梅干しとしては最適なんですよ。ネットの上に落ちてすぐはとてもいい状態なのでこれを使うこともあります。

 

ポイントはしっかり洗うこと。梅の実の表面をよくみてみると産毛が生えているので、水につけた時に産毛に空気が残ることのないように洗っています。

梅は皮ごと食べますよね。みかんやキウイのように皮をむかないから、皮についたゴミなんかを落とすつもりで手でゴシゴシ洗っています。

 

梅干し用の梅はやわらかいものがいいですね。よく皮が薄いから破けやすいといいますが、つける前から柔らかいものでも、朝露や夜露が梅の表面につく、皮が乾燥していない時間帯に裏返すと破けにくくて良いですよ。

小田原梅まつりが中止、そして小田原梅の里さんぽが開かれた

小田原梅まつりの中止は非常に残念ですね。

私はいつも食堂担当として参加をしていましたが、食堂などの飲食を伴うものは全て中止となってしまいました。

 

なんとか農産物の売店は開けて、私達は農産物を売ってもらえてありがたいけれど、準備に多くの時間とお金がかかっていますから、準備に携わった観光協会や実行委員の人たちの苦労を思うとなんとも言えない気持ちです。今年は農作業が日中は忙しく、昼間はなかなか小田原梅の里さんぽの会場に行けていないのですが、皆さんは外に出るのも躊躇してしまうような状態ですよね。

コロナウイルスに対しての予防行動の個人差はありますが、お天気の良い日も続いているし、感染症対策を守りながら、楽しんでくれたらなぁと思っています。

小田原駅を降りればビルでにぎわっていて、かと思えば私達の住んでいる下曽我のように田舎もある。海があり、港があり、山も、川もあって四季折々のいろんな景色が私達を楽しませてくれる素敵なところです。消費者の方々との交流も梅まつりも都会の人が小田原に来ることを楽しみにしていると思うので喜んでもらいたいんですよ。


小田原の梅として有名な十郎梅は評判よく、需要はありますが、後継者が不足していると斉藤さんは話します。

「歳をとると梅干を漬けるのすらできなくなってしまう。そういう人もみてきました。なので、現実的には地域全体で生産量は減っています。一方、近年梅干は健康食であり保存食として見直されてきていて、パンや麺食が賑わってきた食卓でもまだまだ梅干しが求められています。是非、若い生産者に梅の生産に携わって欲しいですね」

梅干し作りの様子
梅干し作りの様子