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農地を守ることは故郷を守るに繋がる


3月の中旬、久しぶりのまとまった雨が降りました。

この日は気温が21度、長袖では汗ばむような春の陽気、小田原市下中地域では穏やかで静かな時間が過ぎます。遠くの山を眺めていると、ところどころツタが蔓延り、長く耕作がなされていないであろうみかん畑が広がっていました。

近年、下中地域でも耕作していない田畑が増えているという話を聞きます。

 

ベテラン生産者曰はく、昔は玉ねぎや果樹を栽培しつつ、自家用の米を栽培していた農家も多かったそうですが、米栽培には高額な機械が必要であるため、資金のない若手には手が出せず、高齢化もすすみ、借り手がいないのだそうです。

また、傾斜のきつい畑ほど手放される傾向にあり、栽培できる品目も柑橘系に偏り、かつ数年放置された畑は開墾の負担から、新規就農者からは敬遠されがちです。

 

一方、開墾からはじめる農業に対してもポジティブにとらえている期待の若手、押田公成(おしだきみなり)さん。ベテラン生産者の江川さんのところで研修をしており、もう少しで独立となります。

 

この日はみかん畑で苗木を植えていたとのことでしたが、前日にたっぷりと雨が降った結果、たっぷりと堆肥を積んでいた軽トラックがぬかるみにはまり、自力では脱出不可能になってしまったとのこと。

耕作放棄地をみて決意

生まれ育ったのはこの地域ですが、農業にはほとんど触れてはきませんでしたね。

でも、おばあさんがみかん栽培はやっていて、小学生くらいのころは「果物狩り」って感じで収穫をしていましたよ。収穫体験って楽しいじゃないですか。いい思い出でしたね~!

 

高校生ぐらいになると頭の隅に農大へ進学という思いもあったのですが、全く違う工学部に進みました。工学は大学でしか学べないからと思って。でも結局経験は活かされていませんね(笑)大学の頃にアルバイトで体験した仕事が楽しいなと思って、大人になってからはタクシー運転手や飲食業(店長職)などをしていたので、人と関わる仕事は多くしてきました。

 

ある時、父の具合が悪くなり地元に戻ってきた時に荒れた農地を目の当たりにして、農業をしみようと思いました。ちょうどタイミングが悪く、神奈川県の農業アカデミーも研修に関する助成金の締め切りも過ぎていて、次年度について尋ねても、「助成金があるかどうかわかりません」と言われて。当時48歳だった僕の年齢では対象でない助成金ばかりでした。そこで小田原市の農政課に相談したら、ジョイファーム小田原を紹介されました。

 

ジョイファームに話をしに行った日に、ベテラン生産者の江川さんが若手の受け入れを検討してくれていることが分かり、その日のうちに江川さんのところに行ったんです。そうしたら帰りに「どうやってここまで来たの?うちの軽トラック使いなよ、研修に通うのに使ってもいいし」と言ってくださって、今は使わせていただいています。

研修はハードだけれど…

僕は昼間に一生懸命働いて、夜にぐっすり眠って、日が出たらまた働く、そんな生活が好きです。

現在は週68:0017:00頃まで研修をしています。基本はキウイ、みかん、玉ねぎ、梅に関する外作業なのですが、雨の日はお休みのこともあります。でも、出荷シーズンでパック詰めなどであれば雨でもできるのでやっていますよ。

夏はさすがにお昼の一番暑い時間に働いては身体を壊しますから、休憩を長くとる為に2時間早く来ています。

それ以外の時間は副業をしていますね。自分は前職がタクシー運転手なので、タクシー運転手のアルバイトができるのです。この地域は高齢の方がタクシーを多く使うし、業界は人手不足なので地域貢献もできますね。

 

今の時期の作業としてはみかんの苗木を植えています。この地域もミカンナガタマムシの被害がひどく、若い木もかなり枯れてしまいましたからね…枯れてしまった木は伐採していますが、根もそのままにしていると幼虫のすみかになってしまうので、成虫になって活発になる前に全部伐根して処分をしなければならないのです。

新しい畑も江川さんと開墾して、今シーズンは800本の苗木を植えるつもりです。

 

今日は半日で100本の苗木を植えるペースで仕事をしていました。僕が先に3種類の肥料をあらかじめ測った場所に撒いていく役割だったのですが、もう本当に後から植えていく江川さんの作業が早いから、煽られてついていくのが精一杯です。

 

みかんは今のうちに改植することはチャンスだと思っています。若い木はミカンナガタマムシの被害はないし、みかん栽培をする生産者は減る一方なので、販路はあります。

下中の生産者の皆さんには何か栽培に関してわからないことがあると聞いたりしています。トラックですれ違う時にいろいろ話したり、今日も耕作しきれないから畑を借りないかと言われたばかりです。他にも剪定講習会にも参加して技術を学びながら、生産者の皆さんと交流しています。

 

半年後には独立しますが、まだ自分で所有している土地はありません。農業機械もないのですが、玉ねぎをやるとなるとトラクターは必須ですね。

「おいしい!」と感じた玉ねぎをメインに!

もう研修は残り半年ですが、メインは玉ねぎとみかん栽培をしたいですね。とくに玉ねぎはこの地域の「下中玉ねぎ」を食べて、なんておいしいんだ!と感動しました。

だから作業がつらくても栽培したいです!苦労してもおいしいものができるんだったら頑張れるじゃないですか。

自分の農業が軌道に乗って、良い畑があればキウイ栽培もしたいですが、受粉の時期が玉ねぎの作業をしている時期と重なるので大変だとは思います。

江川さんがキウイの有機栽培をしているので、将来的にキウイの有機栽培にも大いに興味がありますね。

このあたりだと梅も栽培している人もいて、今は研修で梅の栽培にも携わっているのですが、1人で収穫するとなると本当に大変だと思いますね。こちらもみかんと同じく、これから作り手が減ると思うので新しくはじめるのであればチャンスかもしれません。

将来は飲食で働いていた経験を活かしたいと思っていて、自分が作った農産物を料理したり、居酒屋をやってみたい気持ちもあります。

 

 

 

ミカン畑の草刈りをする押田さん 担い手のいない近隣の畑は葛に覆われていく一方
ミカン畑の草刈りをする押田さん 担い手のいない近隣の畑は葛に覆われていく一方

農産物の適正価格

去年は玉ねぎのベト病がひどかったですね。出荷できた量より畑に捨てた量のほうが多いのではないかというくらいです。あとはトウ立ちですね。

 

今は常に天候が不安ですね。

栽培に関しては江川さんに聞けば教えてもらえますが、天候までは誰もわからないですからね。

異常気象に伴って病気が出ればどうしても薬をまかなければいけないのですが、その薬も使った分コストがかかってきます。でも、相場が決まっているのでその分上乗せなんてできないです。だからといって、見た目の悪いものはどこも扱ってくれません。

農薬や化学肥料を抑えて慣行栽培より手間をかけているのに、簡単に捨てられてしまうっていうのは悲しいです。

除草剤を使えないから、 夏場は本当にひたすら3か月間暑い中草刈りをしています。除草剤を使えばすっと楽なのでしょうけど、自然を守っていくこの栽培は気に入っています。

 

実は僕も昔から生協をとっていて、割合でいえばスーパーで品物を買うより生協で購入することが多いです。

生産者の手取りは必要経費から設定しているので、納品した先での目に見えない運送費やパッキング代なんかも乗っかっているので、商品の価格が高いな~とは思ったことはないですね。

でも、もしスーパーと比べて高いお金を払っているのであれば、だれでも綺麗なものを求めるのは当然です。

クレームとして一方的に受けとめるのではなく、なぜそうなったかを広報していかなければなりません。

 

今後は玉ねぎの収穫祭などのたくさんの人が集まって話ができるような行事にももっと参加したいと思っています。そして、また来たい!と思ってもらえないといけないと思うんです。

農家としてやっていく思い

昔の農家は親族で手伝いながらやっていくのが当たり前だったのが、今は生まれてくる人より亡くなっていく人が多い世の中です。僕も大家族ではないですし、人を雇えるほど余裕はありません。これから先の農家は、どこもそうなっていくので、今までの当たり前が当たり前じゃなくなる時代がやってきたと思っています。

代々農家でも、親から相続をして、ゆくゆくは農家でやっていくつもりだった方ができなくなって、「借りないか」という話もきます。その思いも汲みながら荒れた畑を開墾しているので、「やるしかない!」という気持ちです。

 

自分が畑をもって、将来的には昔の都内の知り合いや会社の同僚にも手伝ってもらえたらと思いますが、農業に関わってもらえるなら楽しみながらやってほしいと考えていて、手伝うかわりに収穫した農産物を持って帰ってもらうみたいな。そんな関わり方ができたらと思っています。

そして、本格的に農業をやりたい人は土地はたくさんあるので是非やってほしいと思っています。農業をするということは「故郷をよくする」ことにもつながります。

どんな状況でも農業は絶対に必要な職業です!

 

少し農業に興味があるって方は、収穫は人が足りないのでどこもお手伝いは喜ばれると思いますし、何より楽しいので。是非人手不足で困っている農家さんと関わっていただけたらと思います。