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常に進化していく農業であるために


2021年度の生梅の出荷が終了しました。

ホームページ上での予約販売も行ない、多くの方に小田原の青梅をお届けすることができました!

いよいよ梅雨が空け良い天気が続いている小田原ですが、梅雨の時期は天気予報が当たらず、ちょうど消毒シーズンであったみかん農家は、作業予定日を後ろ倒しにするしかありませんでした。

消毒をした直後に雨が降ってしまうと、せっかくかけた薬剤が流れ落ちてしまい、効果は半減してしまうので、薬の使用回数を減らしつつ、効果を最大限に活かすには、散布のタイミングを逃さないことが重要です。

「これからみかんの消毒や草刈りをしたり、たんぼは一度草取りをしようかなって。農家の1年間のサイクルで考えると、さほど作業がない時期なので忙しくはないですよ。」

と言うのは下曽我地区の穂坂達夫さん。

もともとご両親が農業を営んでいたといいますが、達夫さんは学校卒業後すぐに家業を継いだわけではなく、塾の講師を経て、30代になってから農業の道へ進みました。

 

本ブログでは過去に「もっと知ってほしい“小田原みかん”のこと【その2】」でお話しをいただきましたが、今回は小田原の農家としてのお話を聞きました。

教育者から農家へ転職

両親の代では梅、みかん、田んぼ、お茶の農家をしており、柑橘は昔から小田原で生産が盛んであった「大津・青島」を栽培していましたが、自分の代になってからは、ゴールデンオレンジ・湘南ゴールド・甘夏などの耕作もスタートしました。

農業をはじめて20年、現在56歳なのですが、未だに「若手」って言われますね。

若手…なのかなぁ。農業関係だけですよね、50代が若手って言われる世界は!(笑)

この「若手」の定義って曖昧ですよね、生まれが私と同じ年でも30年農家としてやっている人もいるんですけどね。私は遅れて農家として入ってきたので、とても得意と言えるほどの技術はありません。

 

前職は塾の講師をしていました。PTAの会長をやったりとか、子どもに関わることはよくしてきましたね。子どもが好きだから始めたというわけではないのですが、自然と関わる形になっているってことは好きなのかな。常に他人を助けたいという気持ちはありますね。

ジョイファーム小田原に加入した経緯

自分の代になる前は農協に出荷していたのですが、年々みかんの買い取り価格が落ちてきていたタイミングで別所地区の同年代の仲間からジョイファーム小田原に加入しているよって聞いたことがきっかけだったと思います。

当時はジョイファーム小田原もどんどん生産者を集めていて勢いもあったし、ベテランの穂坂和昭さん(※ブログ:十郎梅の普及に努めた「十郎世代の生産者達」参照)に相談に行って加入することになりました。

昔はよく皆で集まって「農業経営講座」も積極的に開いていましたよ!いろんな世代が集まってベテラン農家の経営に関する話を聞かせてもらうって集まりでしたが、自分にとっては大変勉強になったので、次世代に向けてそういった集まりが再び増えてもいいと思いますね。

小田原ってなんでもありますよね。東京には近いし、川も山も海もある、環境も人も穏やかなところで、全部合格点まであるから、住みやすさは抜群なんですよ!

ただ、言い方をかえると中途半端かな。

 

他の産地のような特化した農産物がなく、十郎梅はもっと広く知られるといいですね。

「後継者不足が深刻です」と叫ばれ続けて麻痺してしまった私達

最近人の手が入っていないなあと感じる畑は増えてきましたね。私も梅は徐々に畑を借りて耕作面積は増えているのですが、梅農家のご主人が亡くなって、奥様から「剪定だけお願いします」と言われたことがきっかけになることが多いんですよ。

初年度はご家族でなんとか収穫できても、収穫が終わったら複数所有している梅畑の草刈もしなきゃいけないので徐々に手が回らなくなるんです。

畑をみていて、荒れてきそうだな~と思った段階で、私から「耕作しきれそうですか」とか、「畑を貸してくれませんか」と声をかけることもあります。

地域の財産なので、地主さんの思いが消えないうちに畑を守っていきたいんですよね。

一度荒らしてしまうと元に戻すまでにとても時間がかかるんです。

根拠はないのですが、地主さんの調子が悪い時って畑も元気がなくなります。

枯れたり、樹勢が弱いとか、ふと通りかかった畑の様子がおかしいな~って時はだいたい地主さんの調子が悪かったりするので不思議です。

 

ずいぶん昔から「後継者不足が深刻で~」と言われていますが、何年もその言葉を使い続けた結果、私達も麻痺してきていますね。農業新聞でずっと昔からそういった見出しがあるにもかかわらず、相変わらず農業者人口は増えていません。

 

畑の荒れ具合を見ればよっぽどその地域の現状がよく分かります。

「後継者」を期待していたら小田原の農業は衰退していくでしょうね。

今、小田原で農業をはじめる若手は「個人農家を目指している」か「法人化を視野に入れている」かどちらかのタイプですよね。

 

個人農家を目指している人はまず研修を受けて、農家になって、5年間は農家として頑張ると思うんです。わざわざこの小田原で就農するのだから、何を目指して、どのくらいのスパンで、どんな計画で動くのかを決めておかないといけないですよね。もちろん、営農計画とは別です。

自分が地域の農家さんと一緒にやってきたからこそ、個人農家はこの地域にどれだけ添うことが出来るかが重要だと分かります。

しかし、肝心の研修を受け入れる農家にしてみたら、彼らの目標は分かりにくいし、自分の仕事もしつつ研修もとなると、途中でやめちゃうかもしれない人を受け入れるリスクは高すぎます。だから、「研修制度」のあり方って根本的に見直さなきゃいけないと思いますよ。

 

一方で、法人化を視野に入れているような人は、別の地域で目標や技術がまとまった状態で「わざわざ」小田原に入ってきます。県内外の人を集めたり、人を雇用して農業をしていく目標があるので、こちらの方がより短期間で大きくなって、地域の人との関わりは少ないかもしれませんが、結果的に農地の保全・活性化につながるのかなと思います。

 

 

うちは娘が3人いるのですが、農業は継がないと思います。私も他人事ではなく、60歳になったら外部の人を受け入れるか…この先の自分の農へのあり方をどうしていくのか考えなければいけないのです。

進化しつづける農業である為に

20年経過すると年々体力も落ちてきます。

当然、20年前の体力がある頃と同じようにやろうと思ってもできないものなんですよ。

だからみかんの消毒は雨の後と晴れが続いた日とどちらが効くのか、たくさんの荷物を1度に運べば早いのか2度に分けたほうが楽かとか、どんなに小さいことでもいいので、効率を良くするために新しい発見を追及しています。

基本はルーティンワークなので、ちょっと飽きてきていますけど(笑)

去年と同じ方法ではやりたくない、常に進化していたいのです。

ちょっとしたことを無駄だと思わずにチャレンジする人は農家に向いていると思います。

 

最近では気候が大きく変わっていますから、農家は対応しなければいけません。

いつまでも今まで通りは通用しなくなっているんです。

何年か前に梅が「凍霜害(とうそうがい)」を被ったことがあります。

3月終わりから4月に急に冷え込み、それまで順調だった梅の実が凍って傷んでしまったんです。これを「凍霜害」と呼ぶのですが、自分が経験した中では一番の不作でびっくりしましたね。

異常気象も起こりうることを想定して、畑も一箇所に固めるのではなく、山にも平地にも畑を持って、全滅を防ぐなどの対策もとらないといけないですね。

 

今、コロナウイルスの影響で冠婚葬祭が減り、小田原を含めた足柄周辺のお茶農家は大きな影響を受けています。前からお茶は昔ほど食後に飲んだりの習慣がなくなりつつあるのでゆるやかに需要は減っていくだろうと言われていましたけれど、コロナウイルスの影響で今年は販売価格に大きな影響が出ましたね。

お茶農家は今転換期を迎えています。

国内で需要が見込めないのであれば、お茶を飲む文化があるアジアに向けて輸出をしていくのかという話にもなってきます。

需要がないものを作り続けていくのか、規模を縮小するか、完全にやめてしまうのか。

 

お茶に限らず、みかんや梅も同じで、先を見通して変わっていかなければいけないのです。