2月の積雪を耐えた梅の実が膨らむ初夏。
梅、柑橘、キウイフルーツ、ブルーベリーと季節ごとの農作業を絶え間なくこなされている女性生産者のもとを訪ねました。
はつらつとした笑顔が光る穂坂たえ子さん。
ご実家は農家ではなく、24歳で嫁がれたそうです。
「学校を卒業してからは、事務職として企業に勤めていたの。」
夫とは地域の青年会で出会いましてね。
地域のコニュニティーが活発な時代で、同年代の若者が多く活気のある会でした。
◆ご主人のお家は代々農業をされていたのですか。

主人の家系は元々漬物業を営んでいたそうで、義父の代から農業を始めたみたい。嫁いだ当初はみかんとお米をやっていて。みかんの価格大暴落が起こってからは、梅やキウイフルーツに植え替えていきました。
その頃は曽我梅林の梅まつりが全盛で。鑑賞用として、しだれ梅も栽培していました。綺麗な花を咲かせる樹を花木(かぼく)というのだけれど。
しだれ梅の他にも生け垣用のレッドロビンなんかもよく育てていて。根っこを守るために麻布で土ごと包む「根巻き」という作業をして100本単位で出荷をしていました。
農業のことはあんまり知らずにお嫁に来たので、何事もやるしかないという気持ちで。
量は多いし重たいし、本当に苦しいことだらけ(笑)主人と力を合わせて、なんとかやれていました。
1+1は2じゃなくて3になるのだと、ふたりいれば3人分以上のことができていたのだと、今になって思います。
楽しいことも色々ありました。
農作物ごとに地域の生産者部会があり、みんなでバス旅行やお食事会に行ったり。地域の催しではメンバーとつくったものを売っていたから、一緒に盛り上げて。
今でも繋がりが続いていて、集まっています。
それにみかんの樹が多く植わっていた頃は、収穫の時期になると東北の方から住み込みの方々を招くのが主流だったの。
梅の樹に植え替えてからも、親族が集まって手伝ってくれていたわ。
子供が生まれてからは、子育てと家事の両立。
赤ん坊をあやしながら薪を燃してお風呂を沸かして、ご飯を用意して。
毎日、農作業から帰る家族を迎えました。
子供は3人います。主人は高校を卒業してすぐに家業を継いで就農したので、子供たちには自分がやりたい道へ進んでほしいねと話していて。大学へ行かせるために、ふたりでとにかく懸命に働きました。
3人とも高校生になる頃には興味の方向がはっきりしていて。
やがてそれぞれ進路を決めて、自立していきました。
◆子育てに家仕事に共働き。親御さんはいつの時代も大忙しですね。 ご自身の時間はなかなか取れないでしょうが、何かご趣味はございましたか?
農家は畑が趣味みたいなものだよね(笑)
お義母さんも畑の一角でお野菜を育てていたりしてさ。おかげさまでいつも美味しいものを食べさせてもらっていました。
足腰を動かしていたからか、最期までお元気な方だったよ。野菜畑も引き継いで続けています。
子供たちが巣立ったあとで、公民館で行われていた生け花のお稽古に通ったこともありましたね。
市民会館に作品を持ち寄ったりして。
今でもお庭に植えた季節の花木を楽しんでいます。順々に咲いていくお花を眺めていると癒されますね。
◆穏やかな畑とお庭に見惚れます。続けておられるのは相当なご尽力ですね。
昔手伝いに来てくれていた方たちがご高齢になるにつれて、手が足りなくなってしまって。義両親や主人も先立ち、私ひとりになりましたができる限り引き継いでいきたくて。
周囲の生産者の皆様に頼りながら、剪定や草刈りといった以前は主人頼りだった作業を行い始めました。
今は週末になると長女が手伝いに来てくれていますよ。収穫はとにかく人手が必要でね。助かっています。
畑入口のこの坂もかつてはデコボコの土で、収穫物を運ぶのにも一苦労でした。コンクリートを敷いてだいぶ楽になったんですよ。
難しいのは、キウイフルーツや梅の樹には剪定作業があります。
特に梅は経験値と技術が要るのだけれど、若い人に伝えていくのは課題よね。
誰でも初めは何も分からないところから。
年をかけて感覚を身に着けていくものだから、気持ちのある方がいらっしゃればいいのだけれどね。
◆後継者不足の他には、どのような課題があるでしょうか。
やっぱりどうしようもなく天候の影響が大きいのよね。
「南津海(なつみ)」と「ニューサマーオレンジ(日向夏)」いう柑橘を育てているのだけど、一昨年は鳥に食べられちゃったの。
それで去年からは網をかけたら、綺麗にできて。甘くなる3月頃に収穫しようと楽しみにしていたら、2月に積もった雪で果肉の果汁が減少する「す上がり」の症状に見舞われて食べられなくなっちゃった。
皮の見た目は綺麗だったし、60kg近く実りがあったからすごくショックだった。
来年は実がダメにならないうちに収穫したいけれど、ある程度は樹の上で熟させて甘くしたいし…。
バランスの見極めが難しくて、ほんとう年単位の大実験よね。
梅の花も2月の積雪で萎れてしまったのだけど、
雪のあとに咲いてくれた花はしっかり実が成っています。
一つ一つ大事にしながら、できることを順番にやっていくしかないですね。







